凛子 う~ん、参ったな
澄蓮 どうしたんですか、凛さん。
大樹 なんだ?食いすぎか?
茉莉 お兄ちゃん!!
凛子 食べすぎが位ならいいんだけどねぇ~
茉莉 凛姉ぇも!!
大樹 んで、何を悩んでたんだ?
凛子 それがねぇ、メニュー毎の売上なんだけど、これ見て。
大樹 えっと……あぁなるほどな
茉莉 どれどれ~?えっ、凄い月にするとこんな凄い数字になるのね
澄蓮 うわぁ~確かに凄いですね。
これ、1日でも『樹』の頃の一ヶ月分の数字はありますよ
大樹 澄ちゃん、それを言われるとキツイ
澄蓮 あぁぁ!!すみません!!
柚貴 どうしたの?みんな集まって
富士 茉莉、それは?
茉莉 今、売上を見せてもらってたの
葵 売上見てるの?私のCDとかグッズ売れてる?
凛子 葵のは売れ行き上々よ
葵 ホント!!良かった~
柚貴 良かったですね、葵さん!!でも、そんなに喜ぶなんて意外ですね
葵 そりゃ、嬉しいに決まってるでしょ?
吉田 CDやグッズが売れるということは、葵に興味を持ってくれた証ですからね!!
新しいファンが増える可能性でもありますし
柚貴 そっかぁ~それはおめでとうございます
葵 ありがとう。で、他のメニューの方はどうなの?
茉莉 他も良い感じに売上上がってますよ
葵 そう。なら、このお店をやった意味があるわねぇ
茉莉 はい!!
富士 茉莉ちゃん、これはちょっと良くないな
茉莉 え?どうして?
富士 これ、日が経つにつれてフードの売上が落ちてるんだよ
澄蓮 …えっ?
茉莉 なんでよ?
凛子 たぶん、お店のコンセプト的にリピーターのお客さんが多い分、
単価の低いドリンクとデザートが
多く出てるのね。
柚貴 そういえばケーキも最初より減ってるかも……
大樹 勿論、『樹』の時もその傾向はあったけど、これは顕著だな……
茉莉 でも『樹』の時もそうだったなら問題ないんじゃないの?
富士 茉莉ちゃん、それは違うんだよ。
フードが出ないって事は、喫茶店としては致命的なんだ。
凛子 勿論、まだメニューが少ないのもあるんだろうけど、この結果は
大樹 店に客がついてない……
澄蓮 ……それって、お客さんはこのお店の味が美味しくない
って思ってるってことですか?
凛子 必ずしもそうとは限らないけどね、
リピーターが多いのに、同じメニューばかりだだと飽きちゃうのは
当然なわけだしね
澄蓮 そのため、日替わりランチも考えたじゃ無いですか……
富士 それも、曜日ごとだからリピートしてくれるお客さんには飽きちゃうのかもね
茉莉 ならどうすれば良いっていうのよ
大樹 このまま材料費が売上を圧迫するようなら、フードメニューを減らすしか、ないかな
凛子 そうね……一旦売上の低いメニューはやめて、
人気のあるメニューと利益率が高いものを中心にする方が
いいかもね
柚貴 人気が高いメニューっていうと?
富士 パスタとかフライドポテトとかサンドイッチあたりかな?
茉莉 下げるメニューは?
凛子 カレーとかハンバーグ、後、オムライスも最近はあまり出てないわね……
澄蓮 オムライスまで!!
大樹 そうするとその3つは……
澄蓮 ダメです!!
茉莉 澄蓮……
澄蓮 ダメです!!そんなことしたら
この店がもう『樹』じゃなくなっちゃうじゃないですか!!
大樹 澄蓮ちゃん……
澄蓮 私はあの、ちょっと古いかもしれないけど、
何処か落ち着く暖かい『樹』が好きだったんです!!
昔、私達がふざけて破いちゃった壁紙を、
お金がないからってポスターとかで隠してて、
メニューとかもずっと前に先代が書いたままになってて、
お客さんが旅行に行くたびに買って
着てくれたお土産がイッパイ置いてあって、置くところとかなくなっちゃって、
でも何とかやりくりして置いてある……そんな、そんな『樹』が好きだったのに……
こんなメイド喫茶みたいなお店、もう『樹』じゃない!!!!
大樹 ………
凛子 ………
澄蓮 大樹さんも凛さんも酷いです……お金のことは私は分からないです。でも……でも、
こんな風になるなら、私は……
凛子 ダメ!!!!
澄蓮 っ!!
凛子 ダメ、それ以上、その先を言っちゃ、ダメ。
茉莉 凛姉ぇ…
凛子 分かってる。こんなのはあの頃の『樹』じゃないってことは、私が一番わかってる。
澄蓮 なら、なんでですか!!
凛子 この店だけは、潰れてほしくなかった。どんな形でも、どんなになっても。
大樹がいて、茉莉ちゃんがいて、柚貴が居て、私が居て、澄蓮ちゃんがいる……
ここだけは、
この居場所だけは護りたかった、だから!!!
柚貴 ……凛ちゃん
凛子 どんなになっても続けていればやり直すことはできる。どんなに変わっても、
私達が居ればいつか取り戻せる。私にとって『樹』はそういう場所。
……でも潰れたらそれで終わりなの。みんなバラバラになっちゃう。
そんなこと、絶対私がさせない。そのためだったら私はどんなことでもする。
澄蓮 でも………でも……
大樹 茉莉、珈琲淹れてくれ。
茉莉 え?唐突になんで
大樹 いいから。柚貴はアレ作ってくれないか?ほら……
柚貴 うん、大丈夫、わかるよ。
大樹 ありがとう
柚貴 ちょっと待ってね。茉莉ちゃん、行こう。
茉莉 う、うん。
大樹 凛はアレ、持ってきてくれ。
凛子 アレって……あぁ、アレね。分かったわ、ちょっと吉田さん手伝ってくれる?
吉田 私ですか?分かりました
大樹 澄ちゃんはここで待っててくれ。俺もパパっと作ってくる。
澄蓮 え、作るって何を。
大樹 いいから、いいから。富士くんもちょっと手伝ってくれる?
富士 分かりました!!
葵 みんな、行っちゃったわね
澄蓮 ………何、やってるんですかね、私。みんなに迷惑かけて……
自分勝手なことばかり言って。
本当は私だって分かってるんです。なのに、千尋さんに当たって……最悪です。
葵 そう?
澄蓮 え?
葵 みんなが、この店の事を真剣に考えて、悩んで、喧嘩して?
でもそれって、みんながこのお店の事が大事だからでしょ?
私は羨ましいなぁ~そういう関係……
澄蓮 羨ましい?
葵 うん……「アイウィッシュ」が解散する前に、私もこんな風に言えたら、
もっと違ったのかな……って
澄蓮 葵さん……
葵 だから、今このお店のメンバーになれたことに、凄く感謝してる
澄蓮 そんな風に思ってたんですか
葵 私には、貴女達みたいにこのお店に対して、思い入れ見たいなモノはないけど、
それでも、今の私の大切な居場所はココなの。
昔のお店とは変わっちゃったのかもしれないけど、
ココに居れば、みんながいて、お客さん達がいて、いつも楽しくて、
勇気をもらえる。
澄蓮 勇気……ですか?
葵 そう。オーディションに落ちた時とか、何かで失敗しちゃった時とか、
どうしても前を向けない時にふと、ココの事を思い出すの。
皆のこと思い出すと、何だか背中押されてる感じがする。
だから、怖くてもまた次の一歩を踏み出せる。
私にとって、この店はそんな場所。
澄蓮 次の……一歩。
葵 貴女にとってはどんな場所?
澄蓮 大切な、場所です。
葵 なら、一緒に守りましょ
澄蓮 葵さん…
葵 方法は違うかもしれないけど、ココを守りたいって気持ちが同じなら、きっと大丈夫
澄蓮 ……そう、ですね。
葵 さて、そろそろ皆もどってくる頃じゃない?
柚貴 お待たせ、澄蓮ちゃん。
澄蓮 これって……
柚貴 『樹』特製クレープ咲夜ちゃんスペシャル
茉莉 はい、珈琲。ミルク多目の、砂糖は3つね
澄蓮 茉莉ちゃん
茉莉 これでいいんでしょ?みんなの分も淹れてくるから、アンタは先に飲んでて
澄蓮 なら、私も手伝い……
柚貴 いいから、いいから。さぁ、僕もみんなのクレープ作ろうかな。
澄蓮 あっ……これ、懐かしい。(珈琲を飲んで)美味しい……私が好きな味
凛子 えぇ~と、確かこのダンボールに入れたと思ってたんだけどなぁ……あっ!!あった!!はい、どうぞ。
澄蓮 これって……
凛子 そ、みんなで旅行に行った時のお土産。お土産屋さんに行ったら食べ物しかなくて、
でも、店になにか置きたくて、仕方なくこのコケシにしたの覚えてる?
澄蓮 はい……当時はこの顔が怖くて、ずっとお店の奥の方……
キッチンの方に向けて置いてあったんですよね。
大樹 そう。親父が昔、言ってた。こいつがいつもこっち向いてるから、
お前らに見張られてるみたいだってね。
澄蓮 そ、そんなぁ
大樹 そんで、こいつが見てるから不味いものなんか作れない。頑張らないとって思える。
ってな。ほい、『樹』特製オムライス、お待ちどうさま。
澄蓮 ……これって
大樹 どうだい?これでも『樹』はなくなっちまったか?
澄蓮 ……あっ……
大樹 凛の言葉じゃないけど、俺が飯作って、茉莉が珈琲淹れて、柚貴がデザート作って、
凛が仕切って、そんで、澄ちゃんが客を迎える。そんな店が『樹』だっただろ?
葵 ちょっと、私達のこと忘れてない?
吉田 今は私達も居るんですよ
富士 そうですよ、お兄さん。忘れてもらっては困ります。
大樹 勿論、忘れてないさ。葵さんや、吉田さん・富士くん。
今はここに居ないけど、栗田さんや犬塚だって、
みんなこの店を支えてくれる大切なメンバーだ。
そして、このお店で、このメンバーがいる、この場所が俺にとっての『樹』なんだ。
だから、こんなとかは言わないでくれ。寂しいからさ
澄蓮 あっ、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……
大樹 そんなつもりじゃないのは分かってるよ。だからさ、変えていこう。
昔みたいに、色々試したりしてさ。そうやって段々大きくしていこうよ、俺達の店を
澄蓮 はい……はい……
大樹 ほら、冷めちまう前に食ってくれ。
凛子 そうそう。この店のオムライスは温かいうちが美味しいからね!!
ほらほら、大樹は私たちの分も作ってくる。
大樹 はいはい。お前はいつものでいいのか?
凛子 勿論!!ふわとろ卵のデミグラスソースのオムライス!!
柚貴 僕はシンプルなオムライスね
茉莉 私のはデミグラスソースね
大樹 はいはい、ちょっと待ってろ。すぐ作るから。葵さんと吉田さんはどうします?
葵 私は少なめで
吉田 僕は葵の分も食べるので大盛りでお願いします!!
大樹 あいよ。
犬塚 あれ?栗田さん?
栗田 は、はい!!何でもやります
犬塚 そんなところに居ないで、中入ればいいじゃないですか?
栗田 あぁ!!犬塚さん、今はちょっと……
犬塚 うぃ~す、大樹。今日の分の酒持ってきたぞぉ~……
って、みんな揃って何やってんだ?
栗田 実は、今売上の悪いメニューを下げるかどうかを、皆さんで討論されてまして
犬塚 ふぅ~ん…で、栗田さんは入りづらくて外に居たと。
栗田 えぇ、まぁ。
犬塚 んで?どのメニューを下げるんだ?
凛子 う~ん、オムライスとかカレーとかハンバーグとか
ご飯系のモノの売上が悪くてねぇ~
カフェメニューをメインにしようかと思ってるの
犬塚 なるほど。なら、そっちは弁当にすればいいんじゃね?
大樹 ……え?
犬塚 そりゃ、メイド喫茶なんだからケーキとかドリンクの方が出るのは当たり前だろう?
でも、飯も売りたいってなら、店先で弁当とかにすれば良いんだろ?
店内では皿で出せば良いし
凛子 それだ!!栗田さん!!
栗田 はい、なんでもします!!お弁当コーナーのリフォームですね!!お任せ下さい
凛子 さすが、栗田さん、頼りになる~
大樹 また、この展開か……まぁ、今回は犬塚のファインプレーだな
犬塚 俺、何かしたか?
大樹 まぁ、な。
柚貴 犬塚さん!!ありがとう~
犬塚 ユキさん、とんでもないです!!お役に立てたなら、男犬塚、本望です!!
柚貴 そんな、大げさな
凛子 さぁ~て、忙しくなるわよ~~そのためにも、まずは腹ごしらえしましょ!!大樹~
大樹 分かった分かった、すぐ作ってくるよ。
澄蓮 大樹さん!!
大樹 ん?
澄蓮 ありがとうございます。
大樹 ……おう。美味いか?
澄蓮 はい、美味しいです。『樹』のオムライス