第8話 茉莉の不安


客① やっぱり柚ちゃんはいつも可愛いいなぁ~

柚貴 ありがとうございます、これ下げちゃいますね。

客① ご馳走様。はぁ~それに比べて、うちの嫁は。

柚貴 また喧嘩ですか?ダメですよ、大切な時期なんですから

客① 柚ちゃんが嫁だったならなぁ~

柚貴 僕は男の子ですよ~

客① いや、柚ちゃんなら俺、いける気がする!!

柚貴 気のせいです。冗談言ってないで、ちゃんと奥さんと仲直りしてくださいね。

   待望の赤ちゃんじゃないですか。

客① そう……なんだけどな。

柚貴 きっと、初めてのことで奥さんも不安なんだと思いますよ。

客① そうなんかな?

柚貴 そうですよ。女性の辛さは僕達にはわからないですけど、

   支えられるのは旦那さんだけなんですから、

   頑張ってください!!

客① 柚ちゃんがそういうなら頑張るか~

柚貴 ファイトです!!

客① ありがとう。じゃあ、また来るよ

柚貴 ありがとうございました~

 

 

 

茉莉 ユウ兄ぃ、今のお客さんは?

柚貴 茉莉ちゃん。あの人、僕のリスナーさんなんだ。

茉莉 そうなんだ。なんかユウ兄ぃと親しそうだったから

柚貴 配信初期からずっと応援してくれてるリスナーさんでね、

   最近、奥さんが出産前でイライラしてるみたいで、

   喧嘩しちゃったんだって。それで家に居づらくて、今日はお店に来てくれたみたい。

凛子 あぁ~それで長居してたのね。

茉莉 凛姉

凛子 べったり張り付いてるから、大樹と帰ってもらうかどうか話してたのよ。

柚貴 そうだったんだ!!ごめんねぇ~でもあのリスナーさん凄くいい人だから安心して。

凛子 みたいね。なんか犬塚くんもやたら止めてくるし、

   一応声だけかけようと思ってたところ

柚貴 心配かけちゃったみたいだね。

凛子 いいのよ~確かに長居だったけど、その分オーダーも入れてくれたから?

柚貴 無理ない程度に、って言ったんだけど、

   お土産にケーキまで買って行ってくれたからね。

凛子 じゃ、ココの片付けはお願いね。それ終わったら、お店も落ち着いてきたし、

   茉莉ちゃんと一緒に休憩入っちゃって。

茉莉 え?私も?

凛子 そ!!じゃ、お願いね~

柚貴 はぁ~い。じゃあささっと片付けてちゃうね

茉莉 あじゃあ私も手伝う

柚貴 ありがとう~

 

 

 

   休憩室

 

茉莉 ねぇ、ユウ兄ぃ?

柚貴 何?

茉莉 ユウ兄ぃはリスナーさんのこと全員把握してるの?

柚貴 さすがに全員は把握してないよ!!

茉莉 でもユウ兄ぃ、お客さん毎に違う話してるよね?

柚貴 それは仲のいいリスナーさんが来てくれるから、その人のことを知ってるだけで

茉莉 そう、なんだ……

柚貴 どうしたの?茉莉ちゃん

茉莉 凄いなぁって思って

柚貴 え?凄い?

茉莉 うん。ユウ兄ぃだけじゃなく、凛姉ぇも、葵さんも

   みんな自分のお客さんの事、ちゃんと把握してて、

   一人ひとりと向き合って接客してるでしょ?

   澄蓮だって、自分のお客さんこそ居ないけど、

   着たお客さん一人ひとり誰のお客さんで、

   いつ来たかとか全部覚えてるんだよ、あの子。

柚貴 それは、凄いね~!!

   でも、それだったら茉莉ちゃんのブログの読者さんも来てくれてるじゃない?

茉莉 違う。

柚貴 何が、違うの?

茉莉 私は読者さんのこと、何も知らない

柚貴 え?

茉莉 私のブログは、私が思ったこと、感じたことを一方的に書いてるだけで、

   誰かと繋がろうと思って

   やってたわけじゃない。だからブログを見て、この店に着てくれたとしても、

   私はその人が誰で、

   どんな人かとか全然知らない……

柚貴 茉莉ちゃん

茉莉 だから、みんな凄いなぁ~って……

   ほら、私ってこんな性格だから皆みたいに愛想よくできないし、

   澄蓮みたいにお客さん全員、把握するとかできないし……

柚貴 茉莉ちゃん

茉莉 お店はさ、凛姉ぇとかのおかげで、だいぶ形は変わったけど続けていけそうだし、

   このメンバーで店をできるのは楽しいんだけど、私だけ向いてないなぁ~って思って

柚貴 茉莉ちゃん

茉莉 だからね、私フロアじゃなくてキッチン入って、

   ドリンクに専念しようかと思ってるの。

   接客は苦手だけど珈琲ぐらいなら淹れられるし、

   それぐらいなら私でも皆の役に立てるかなって……

柚貴 茉莉ちゃん!!

茉莉 っ!!……なに?

柚貴 そんなことない。

茉莉 ……え?

柚貴 そんなことないよ、茉莉ちゃん。

   だって茉莉ちゃんは今でもお店の役にたってるんだから

茉莉 そんな気休め、言わなくていいよ

柚貴 気休めじゃない。聞いて、茉莉ちゃん。

   茉莉ちゃんが淹れてくれてるコーヒー凄く評判いいんだよ。

   知って

茉莉 ……そうなの?

柚貴 うん。僕のお客さん、皆ここの珈琲は美味しいって言ってくれるんだよ。

   本格的なお店で飲む珈琲みたいだって。

茉莉 それは言い過ぎだよ。私なんかまだまだ……

柚貴 でも、茉莉ちゃん毎日、ちょっとずつ豆の粗さとかお湯の温度とか変えてるでしょ?

茉莉 それは毎日湿気とか気温が違うし、

   その日一番美味しいコーヒーを出すにはやらないといけないから……

柚貴 それこそが、茉莉ちゃんなりのお客さんへのおもてなし、なんじゃないのかな?

茉莉 でも、それは……

柚貴 一人ひとりに細かくは難しくても、本当に美味しい珈琲を出そうっていう、

   茉莉ちゃんの気持ちが

   ちゃんと伝わってるから、お客さんも満足してくれてるんだと思うんだ。

茉莉 そう、かな?

柚貴 そうだよ!!

茉莉 えっ、ちょっ!!ちょっと、近い……

柚貴 それこそが茉莉ちゃんのやり方なんだ!!

   だから『ぐらい』だなんて、自分を卑下する言い方しちゃダメだよ。

茉莉 う、うん、分かった。分かったから、そんな近づかれると……

柚貴 茉莉ちゃんはこのお店にとって大切なメンバーなんだよ。

   だからそんな悲しい顔しないで。

茉莉 うん!!うん!!もう大丈夫、大丈夫だから……

柚貴 ホント!?良かった~~

茉莉 エェ!!えぇぇぇ!!!ちょっ!!ユウ兄ぃ!!いきなり、そんな抱きつかれると……

柚貴 ごめんね、不安にさせちゃって。

   もっと早く気付いてあげれれば良かったのに、遅くなっちゃった

茉莉 ……あぁぁ……のぉぉ……

柚貴 これからは何かあったら、僕に話してね。僕が茉莉ちゃんのこと守るから

茉莉 ……えっ…それって……

葵  あの~お取り込み中のところ悪いんだけど、もういい?

茉莉 

葵  そろそろ、休憩代わって欲しいんだけど。

茉莉 あ、葵さん!!!!

柚貴 もうそんな時間!!ゴメンね~長話しちゃった。

葵  別に私は大丈夫だけど、澄蓮が……

澄蓮 うっ……うぅ……茉莉ちゃん……ごめんなさい!!

茉莉 ちょっ!!ちょっと、澄蓮、なんで泣いてるの!!

澄蓮 友達なのに……気付いてあげれなくて、ごめんなさい~

茉莉 あぁ~~もう大丈夫。大丈夫だから。泣かないでよ~

澄蓮 でも~~

茉莉 ユウ兄ぃに話したらスッキリしたし、

   なんか私なりのやり方もちょっと見えてきたし。もう、大丈夫。

澄蓮 本当、ですか?

茉莉 本当。

澄蓮 でも、またなんかあったら、絶対話してくださいね!!

茉莉 話す、話すから。

柚貴 澄蓮ちゃん、はい!!ハンカチとティッシュ。お顔が大変なことになっちゃってるよ

澄蓮 ありがとうございます~(全部濁音で)

葵  茉莉

茉莉 あっ、ごめんなさい、葵さん

葵  私のお客さんにもね、貴女の珈琲のファンは多いの。

   でも、声かけるの勇気が出ないんですって。

茉莉 えぇ!!そう、なんですか!?でもそれって接客業としては失格なじゃ

葵  それはあの人達がビビリなだけ。だから悪いんだけど今度、声かけてくれる?

茉莉 それはいいですけど……

葵  貴女のブログも読んでて、いろいろ聞きたいみたい。だからお願いね。

茉莉 分かりました。

葵  それと

茉莉 え?

葵  ごめんなさいねこういう事に一番慣れてるのは私なのに、気付けなくて。

茉莉 そんな、謝らないで下さい!!

葵  これからは何かあったら私にも相談してね。例えば、面倒なヲタくの扱い方とか

茉莉 あはは~~それは今度、是非。

柚貴 はい、澄蓮ちゃん。もう大丈夫?

茉莉 ありがとうございます、柚貴さん。

柚貴 一応、まだ営業中だから柚って言ってね。

茉莉 あぁ!!すみません。

柚貴 じゃあ、フロア戻りますね。凛ちゃん達には……

茉莉 大丈夫。様子見も兼ねて私達が先に休憩入ったの。だから、心配しないで。

柚貴 そうだったんですね。ありがとうございます。

茉莉 どういたしまして。じゃ、休憩貰うわね。

柚貴 はい、ごゆっくり。茉莉ちゃん行こうか

茉莉 うん。……あっ

柚貴 ん?どうしたの?

茉莉 あのね、ユウ兄ぃ

柚貴 何?

茉莉 ありがとう。

柚貴 どういたしまして。

茉莉 それと、さっきみたいな事は勘違いされると思うから、

   気をつけた方が良いと思うよ

柚貴 さっきみたいなこと?

茉莉 その、抱きしめるとか……

柚貴 あぁ~大丈夫だよ。

茉莉 え?

柚貴 あぁいうのは、茉莉ちゃんにしかしないから。

茉莉 ……え?

柚貴 じゃ、戻ろう。

茉莉 ちょっ……それ、どういう……

柚貴 あっ、お客さん来たみたい。先に行くね!!

茉莉 えぇ……あっ……ちょと、ユウ兄ぃ

柚貴 お店では僕は柚だよ~茉莉、ちゃん!!

茉莉 もう!!誤魔化さないで